大谷翔平とアンモナイト

短編&エッセイ

 元々は阪神ファンだったぼくだが、イチローがマリナーズに入った頃から日本のプロ野球をほとんど見なくなった。大リーグの気になる試合が BS1 で放送されると、録画しておいて暇なときに見る。ぼく自身は(あるときにバドミントンをしていて肉離れを起こしてから)すっかり運動らしい運動をしなくなった。たまに山に登るだけ。でもスポーツを見るのは依然として大好きで、特に大リーグと大相撲は欠かさず見る。だから NHK の受信料を払わない人がいるなんて・・・ちょっと信じられない。

 そこで今回の主役はメジャーリーグで二刀流旋風を巻き起こしている大谷翔平くん。昨シーズンは右ひじのケガでちょっと残念だったが、それでもぶっちぎりで MLB アメリカンリーグの最優秀新人賞を獲得。なんてったって、二刀流! すごすぎる。アメリカの野球通だけでなく、あの甘いマスクで女性ファンも虜にした。

 ついつい「甘いマスク」なんていう安っぽい常套句を使ってしまったが、大谷くんの場合、はっきり言って「童顔」なのだ。屈託のない笑顔がとてもかわいい。ところがプレーしているときの集中力は見かけによらずものすごい。投げては 160 キロ超えの剛速球と落差の大きいスプリット。打っては 150 メートル超えのパワフルなスイング。あの童顔とプレースタイルのギャップが彼の魅力だとも言える。

 ところで童顔といえば、大谷くんと二刀流で比較されるあのベーブ・ルース。本名はジョージ・ハーマン・ルースなのに、笑顔がかわいいので「童顔・ルース」つまりベーブ(babe、赤ちゃん)ルースというあだ名で呼ばれている。でも日本ではそれが本名だと思っている人が多くて、MLB を見るまではぼくもそう思っていた。

 さて、今回のもう一方の主役はアンモナイト。大谷翔平とアンモナイトの間にどんな関係があるのか。キーワードとしては「二刀流」なのだが、わかるかな? わからないだろうな。

 ここで簡単にアンモナイトのことを紹介しておこう。もちろんご存じの方も多いと思うのだが、およそ 6500 万年前に、恐竜とほぼ時を同じくして絶滅してしまった。巨大隕石の衝突が原因だと思われる、いわゆる KT 絶滅である。アンモナイトの形は巻貝のよう。殻を持った海棲動物だが、中身の体の方は柔らかすぎて化石に残らないないので想像するしかない。


画像:Wikipedia

 この図では、巻貝からタコのような生き物が出ている。しかし化石として残っているのが貝殻の部分だけなので、足が何本あったのか、目が有ったのか無かったのかも含めて、すべて想像の世界なのだ。それでも軟体動物であることに間違いはなく、イカやタコ、オウムガイなどと同類の「頭足類」に分類されている。くどいようだが、上の写真は全くの想像図なので、全然違う姿だった可能性もゼロではない。

 下に、タコとオウムガイの画像を並べてみた(画像は鳥羽水族館より拝借)。まあアンモナイトは、この二つに似ていたことはほぼ間違いないだろう、ということで生物学者の意見がほぼ一致している。オウムガイも、イカやタコの仲間も、そしてアンモナイトも、大量絶滅の何億年も前から棲息していた。

 足の数は、タコは八本、イカは十本、と決まっている。しかしオウムガイはというと、これはもう足なんてものではなくて、上右の写真では殻に収納されていて見えないが、細い触手が 90 本近くもある。この触手はものに付着するために使うだけで、獲物を捉えるわけではない。動きも鈍くプカプカと浮遊するだけ。ふだんは深海に潜んでいて、沈んで来る死んだ魚介類や甲殻類のカラなどを食べているらしい。

 一方、貝殻を脱ぎ捨てて自由になり、俊敏な動きが可能になったタコ。その結果としてタコは、頭脳も進化して賢くなり、海のハンターとして成功している。イカもタコも寿命は短いのだが、軟体動物の中では知能が最も高く、数的にも繁栄している部類だろう。一方、殻に閉じこもったまま安全を確保してなんとか絶滅を免れたオウムガイ。大成功しているとは言えないオウムガイだが、今でも「生きた化石」なんて言われながらなんとか種を維持している。しかも寿命は数十年とけっこう長い。


画像:日本ジオパークより。三笠市立博物館

 これは北海道の三笠市立博物館にある国内最大のアンモナイト展示だ。直径 2 メートルを超えるかなり大きなものもあるし、ほんの数センチの小さなものもある。色や形も様々で、日本は特に珍しいタイプの化石が多数出土するところとして有名。なにしろものすごく繁栄していたので、世界中いたるところに化石が残されており、生きていた時代を判定するための「示準化石」として使われるくらい。

 そんなに大繁栄していたアンモナイトがなぜ絶滅してしまったのか・・・。全くの謎なのだ。小さいタイプもいたので、恐竜のように大型化したことが原因ではない。殻をかぶっているので防御力はタコより優れている。しかもオウムガイよりはタコに近く、(何本あったかは不明だが)足で獲物を捕まえて食べていたのだろう。そうでなければあんなに大きく育つはずがない。

 アンモナイト絶滅の理由については、世界中の生物学者が様々な説を自信たっぷりに主張しているのだが、そうした専門家の意見が大きく割れているのを見ても、この問題はかなり複雑であることが分かる。だからぼくのような素人でも、勝手な意見を述べて構わないのだ。案外、素人のアイデアが真実に近かったりする可能性もある。いずれにしても、絶滅の原因が判明することはおそらくないので、誰がなにを言っても大丈夫なのだ。

 アンモナイトが化石だけを残して地上から消えてしまった理由。それは「中途半端」だったから。あれだけ世界狭しと繁栄していたアンモナイトが絶滅するには、それだけの理由があるはず。それを大胆に推測してみよう。

 恐竜の場合、いま生き残っている恐竜の子孫が「鳥類」であることを考えると、絶滅の理由が見えてくる。ぼくらが見ている鳥の仲間と恐竜を比べれば、鳥が恒温動物であるのに対して、一応「爬虫類」である恐竜は変温動物だった。ただし、体が大きくなったこともあって、恒温動物に進化する途上にあったのではないか。だから体毛も満足に生えておらず、気候の変化について行けずに絶滅したのだ。

 アンモナイトの場合を考えてみよう。まず、イカやタコの仲間なのに、殻を脱いでいない。当然ながら泳ぐスピードは遅いし動作も鈍い。だから当時の水温の変化によって、それまで捕食可能だった「動きの遅い餌」が絶滅してしまい、十分な餌が摂れなくなった可能性がある。しかも、殻の進化も不十分だったので、オウムガイのように深海に潜って活路を見いだすこともできなかった。

 要するに、巨大隕石衝突のような想定外の大事件が起こった場合、進化が中途半端な生物は絶滅に追い込まれたのではないか、というのがぼくの仮説だ。ここで今回のクライマックスである大谷くんとアンモナイトの関係が見えてきたと思う。

 もちろん大谷翔平には「二刀流」で成功してもらいたい。投手と打者の両方であれだけの才能を持った大谷くんを普通の「一刀流」にしてしまうのはあまりにもったいないと思う。しかし二刀流を維持するためには、中途半端は絶対に避けなければならない。それではアンモナイトの二の舞になる。

 毎週、日曜日のたびに投手をやる「ショーヘイ・サンデー」ではダメなことが、昨シーズンのケガで証明された。それではどうするか。ひとことで言うと、メリハリを付けること。僕がエンジェルスの監督だったら、月ごとに投手とバッターを切り替える。つまり、開幕から四月末までは指名打者オンリー、そして五月はピッチャーに専念するというローテーションを組む。

 あるいは、毎週ではなくて毎月十の日、つまり 10 日、20 日、30 日だけに投手として登板する。これだと肩や肘への負担も少なく、休養もそれなりにとれる。その間の 8 日間はバッティングに専念できるので、ほぼ普通の野手並みの成績が残せると思う。ホームラン 30 本、盗塁 30 個、打率 3 割も夢じゃない。投手としても年間 18 回の登板で 10 勝は楽にできるだろう。

 どうでしょうか、アンモナイトの絶滅にヒントを得た大谷翔平「二刀流」マネジメントプラン。登板間隔などのマネジメントをしっかりやれば、大谷くんは二刀流で成功できるとぼくは確信している。大谷くんとアンモナイトの一番大きな違いは、環境や状況の変化に動じない「対応力の高さ」なのだと思う。もう二ヶ月もすると 2019 シーズンが始まる。大谷スマイルでどんな打撃を見せてくれるのか、もう今からワクワクしているぼくなのだ。