フタリシズカ – 菜摘み女に取り憑いた静御前のお話

 この季節に山道を歩いているとよく見かける山野草のひとつに「フタリシズカ」がある。なぜそんな名前が付いたのか、気になって調べてみた。

 フタリシズカが群生している様子。よく見ると、対になった葉の中央から 2 本の花序が垂直に延びて、白い花が付いているのが分かる。花が 2 本ずつ付いているから、それで「二人静か」なんだなと見当は付くのだが、ちょっとよく分からない。実はこの「静か」というのは、かの「静御前」のことなのだ。

 静御前といえば源義経の妾として有名な白拍子だ。現代に例えると、若手有力政治家と不倫が噂された美人ダンサーかな。そんな静御前の死後、あるとき野原で菜を摘んでいた菜摘み女に静御前の霊が取り憑いた。その霊が「罪滅ぼしのための弔いをしてください」と頼むので、僧侶が「ねんごろに弔うから舞いを見せて欲しい」というと、菜摘み女が衣裳をつけて舞いを舞い始める。するといつの間にか静の霊も現われて、一人の女が二人になって舞を舞った、というお話。

 というわけで、改めてこの花を見ると、なるほど二人の女性が舞っているようではないか。取り憑かれた菜摘み女と、それに重なって舞い踊る静御前の霊。能のストーリーにこの花の姿を重ね合わせた素晴らしい命名だと思う。いったい誰がこんな名前を思いついたのだろう。

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