ぶつかる! アンドロメダ銀河

 アンドロメダ銀河(M31)は、秋から冬にかけて見ておきたい天体の一つだ。実際に自分の目で見てから数字でいろいろと情報を示されると、宇宙空間の距離感というか、我々の脳味噌では実感するのがかなり難しい「スカスカ度」を、ちょっとだけでも感じてもらえると思う。まあ、この記事を読んだだけで感じてもらえるのが目標なんだけど。


画像クレジット:NASA

 上の写真は NASA のハッブル望遠鏡を使い長時間露出で撮影したものなので、星が密集していて明るく見えるが、実際に僕らが双眼鏡や望遠鏡を通して眺める生の M31 は、中心部分が少し明るい、ボーッとした楕円形の光芒にすぎない。M31 の真下に小さな光の塊が見えるが、これも M32 という番号が付いた銀河だ。後から話に出てくるので憶えておいて欲しい。

 さて、夜空に見えるたくさんの星は、ほとんどが「天の川銀河」に含まれる恒星だ。天の川銀河(僕たちの太陽系もその一部)の直径は、約 10 万光年。肉眼で見える恒星の中で最も遠いものでも、1 万 5000 光年程度といわれている。

 ところが M31 は天の川銀河の外側、しかも遥か遠く、実に 230 万光年という距離に存在している。つまり、僕たちが今夜見ている M31 の光は、230 万年前にアンドロメダ銀河を出発した光だということ。そんなに遠くにあるのに、含まれる星の数が一兆個を超えるという巨大銀河なので、肉眼で見ることができる。(機械を使わずに)生で見られる最も遠い物体、それがアンドロメダ銀河だ。

 230 万年前というと、最初に石器を使い始めた我々人類の祖先、ホモ・ハビルスがアフリカの草原をウロウロしていた頃。ハビルスの脳の容積は現生人類の半分ほどだった。そんなに大昔に出た光が、230 万年後に地球に届いても、邪魔されずに真っ直ぐそのまま届いているという事実にまず驚く。途中に障害物がほとんどない。宇宙はそれくらい「スカスカ」なのだ。

 次に、異なる周波数のフィルターをかけて撮影した写真を見てみよう。冒頭の写真にも写っていた M32 という小さな銀河。角度がやや異なる下の写真でも、M31 の下でオレンジ色に光っている。そして M31 の中心付近をよく見ると、明るい部分の左側が歪んでいるのが分かる。明るい星の帯が途切れ、少し凹んで見える。


画像クレジット:NASA

 この歪みは、数百万年前に M32 が写真の左上の方から移動してきて、M31 の中心の左側を「ボスッ」と突き抜けた跡なのだ。宇宙空間には大小の銀河がこんな風にグループを作って存在しており(これを銀河群と呼ぶ)、お互いに衝突したり離れたり、時には互いの重力によって合体したり、まるで生き物のような相互運動をしている。

 そして実は、我々の天の川銀河とアンドロメダ銀河も、数十個の銀河からなる一つの銀河群に属している。しかも天の川銀河と M31 とはお互い接近しつつあり、計算では約 40 億年後に衝突するという。M31 の大きさは、我々の銀河の約 2 倍。シュミレーションによると、お互いに衝突して突き抜けた後で、重力によって公転しながら数回の衝突を繰り返し、最後には合体してより大きな銀河になるらしい。

 銀河同士の衝突と聞くと、星同士がバチバチとぶつかって火花がたくさんでそうな気がするが、星同士が離れているために衝突はおそらく一回も起きない。恒星と恒星の間は、平均すると東京と大阪くらいの距離にピンポン球がおかれているようなものなので、滅多なことでは衝突しない。銀河とはそのくらい「スカスカ」な状態なのだ。

 ここで話は突然、僕らの目の前にある物体に飛ぶ。例えば我々の体を構成している原子。原子の中心にある原子核をピンポン球の大きさに描くと、その周りを飛び回る電子(大きさは原子の2000分の一ほど)を含めた原子全体の大きさは、だいたい直径 3 km の球体になる。つまり、直径 3 km の風船の中心にピンポン球一個。すべての物質はそんな「スッカスカ」の原子からできている。

 スッカスカの宇宙の片隅で、スッカスカの脳味噌と、スッカスカの目と指を使ってこの記事を書いている僕。それを何かのきっかけでたまたま見つけて、スッカスカの目と脳を使って、スッカスカのパソコン(またはスマホ)の画面上で読んでいるあなた。これって、奇跡?

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