ルカ(LUCA)ってなに?

 生き物の系統は、元をどんどん遡って行くと、たった一つの生命に行き着く。地球が始まって以来、46 億年という気が遠くなるような時間の中で、生命が発生したのはたったの一回だけ。そのとき最初に生まれた生命を「ルカ」と呼ぶ。ルカ(LUCA)とは、Last Universal Common Ancester の略で、日本語に訳すと「全生物最終共通祖先」となる。

 ちょっと考えてみよう。我々人間と、犬や猫などの哺乳類の祖先が共通だと言われれば、学校で進化論を習った僕らのほとんどが「当然だよね」と思う。しかし、鳥や魚もそうだと言われると「まあそうかな」という気持ちになるだろう。そこでさらに、庭で花を咲かせているバラや、道ばたのヨモギ、今朝の味噌汁に入っていたワカメ、さらには腹の中の大腸菌、さらにさらにインフルエンザウイルスさえも祖先は一つだと言われると、「えぇ? それは違うでしょ」と思う人が多くなりそうだ。でもそうなんです。


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 「おっさん、しつこい!」と思われるのを覚悟でもう一度言うが、地球上に生命の系統は一つしかない。様々な環境に順応している生物の種類は、推定で 3000 万種ほどになるという。それがすべて、たった一匹?から出発したのだ。どんなに探しても、DNA によって自己複製するこの一系統から外れた生物は一匹もいない。だから冒頭で言ったように、「生命が発生したのはたったの一回だけ」という結論が出てくる。


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 さて、先月(2018 年 7 月)、小惑星探査機「はやぶさ 2」が遂に小惑星 Ryugu(りゅうぐう)の周回軌道に到達した。りゅうぐうという名前は、太陽系の起源を探るための「玉手箱を持ち帰りたい」という願いを込めて命名されたもの。初代はやぶさが微粒子を持ち帰ったイトカワに比べて、Ryugu はより原始的な C 型の小惑星だ。そのサンプルを持ち帰ることができれば、生命の起源に迫る発見があるかもしれない。

 Ryugu のような小惑星の母天体、あるいは火星には、我々の地球より以前に生命が発生していて、そうした他の天体から何らかの方法で地球に生命がもたらされたと考える科学者はかなり多い。こうした考え方の根本にあるのは、宇宙空間には最初から「生命の素」みたいなものが存在していて、環境の整った惑星があればどこでも高等動物まで進化するに違いないという推測だろう。

 ちなみに、この生命観が真実だとすると、土星の衛星エンケラドゥスにある熱水口にも、木星の衛星エウロパの厚い氷の下にも、そして火星の地下にたまっている水の中にも、バクテリアなどの生命が存在している可能性が高い。

 そして当然ながら、我々の天の川銀河の中だけでも数千個におよぶ地球のような惑星それぞれに、我々と同様に DNA によって自己複製するタイプの生命が繁栄していることになる。もちろん惑星ごとに環境が異なるので、姿形は様々かもしれない。そうした多様性について想像をたくましくするのは確かに楽しい。しかしそうした系外惑星上の珍しい生物も、そして僕たち人間も、祖先は同じルカ(LUCA)なのだ。


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 このような、言わば「生命宇宙遍在説」に対して、そもそも私たちの地球こそ生命の発生場所なのであって、様々な偶然や幸運が何千回も何万回も重なった結果として“この地球だけに”生命が発生したのだという考え方を(僕が勝手に)「奇跡の地球説」と呼んでいる。ここ二、三十年の傾向として、日本では前者を支持する人の割合が増える傾向にあって、おそらく 8:2 くらいになっているような気がする。へそ曲がりの僕は、もちろん後者の「奇跡の地球説」を支持している。

 とは言うものの、もし将来的に「生命宇宙遍在説」が真実であると証明されたとしよう。すると銀河系内のあちこちに出かけることで、例えば進化レベルが数億年前の地球とほぼ同じ「過去の地球」に会えるかもしれない。これはめちゃくちゃ楽しそうだ。つまり、生命にとって超危険なタイムマシンなど使わなくても、ものすごく魅力的なあのティラノサウルスを生で見られるかもしれない。万が一そんなことになったら、群れで狩りをするティラノサウルスをテラスでコーヒーを飲みながら双眼鏡で観察し、「あぁ、長生きして本当に良かった」としみじみ思うに違いない。

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