百間滝と油木美林を見ながら歩く御嶽古道(Hyakkendaki Waterfall & Aburagi Forest)

御嶽山の黒沢口登山道、第三のルート!

 御嶽山の頂上を「剣が峰」と呼ぶ。長野県側からこの剣が峰まで登る主なルートとしては、王滝口(おうたきぐち)と黒沢口(くろさわぐち)という二つの登山道がある。しかし 2014 年の噴火以来、火山活動の影響で王滝口から頂上までの登山道には規制があるため、2020 年 8 月現在、黒沢口から登るのが一般的。

 黒沢口の場合、六合目の「中の湯(なかのゆ)」までバスや自家用車で行くのが一般的だったが、平成元年にロープウェイが開通してからは、これを利用して七合目まで行く登山者が急増した。こうしたポピュラーなルートに加えて、実は油木美林(あぶらぎびりん)を経由して七合目で現在の登山道に合流する古いルートが存在する。これが今回とりあげる「第三のルート」だ。

 この立体地形図は、「こもれびの滝」近くにある案内板を撮影したもの。今回は図中の「6合目 中の湯駐車場」から、上中央の「行場小屋(ぎょうばごや)」まで登り、そこから左下の「百間滝(ひゃっけんだき)」を通って、一番右下の「現在地」と書いてあるポイントまで下る。図中で「油木沢ヒノキ植物群落保護林」と書かれているのが、いわゆる「油木美林」だ。

 実はこの油木美林ルート、江戸時代にはメインの登山道として使われていた時期もあったほど。つまり江戸時代の黒沢口には、平行する二つの登山道があったことになる。

 しかし現在では便利な交通機関があるので、実際にこれら二つのルートを登山道として利用する人はほとんどいない。四合目から七合目の行場山荘上の分岐まで、樹林帯あるいは車道をひたすら登らなければならないからだ。

 そこで思いついたのが、今回の油木美林を「下る」御嶽古道滝巡りコースだ。歴史と自然を同時に楽しめるハイレベルのウォーキングトレイルになっていると思う。

 「中の湯」駐車場。木曽町から、バスまたは自家用車で御嶽山に登る場合は、ここで登山者カードに記入する。ここから御嶽山の頂上までは、ゆっくり歩くと 4~5 時間かかる。

 駐車場から登山道に入ると、すぐにこの分岐が見えてくる。左へ行くと 1 時間ほどで百間滝に到着する。今回は、行場小屋までの古道を見ることが目的なので、七合目の行場山荘まで登り、それから百間滝を経由して油木美林方面に下るという算段だ。

 最近も使われている登山道なので、よく整備されていて歩きやすい。

 今では使われていない山小屋。ロープウェイができる前はずいぶんと賑わっていたのだろう

 行場山荘のすぐ下に、ロープウェイ山頂駅への分岐がある。

 行場山荘で一休み。ここでは麺類などの簡単な食事も提供している。

 行場山荘から八合目方面に向かって登り始めると、すぐにこの分岐に出る。ここを左折して、百間滝方面へ下る。この道も覚明行者が信者らと一緒に作った古道なのだ。

 「ウスタケ」という名前のきのこ。「ラッパみたいだな」と思ったら、やはりラッパダケの仲間らしい。どう見ても毒きのこだ。

 団扇のような「ハリブキ」。鋭いとげが上向きに生えている。ウィキペディアには「深山の樹林下などのやや薄暗い場所に自生する」と記載されている。ウコギ科の落葉低木であり、蕗(ふき)とは無関係。

 谷川を横切ったり崖に沿って歩いたり、変化に富んだ景色が続くなかなか楽しいトレイル。

 これがお目当ての「開道遺跡石燈籠」だ。今回、百間滝に直行せずに七合目まで登ったのは、実はこの石燈籠が見たかったから。この道が覚明行者が開いた登山道であるという証拠がこの石燈籠なのだ。道が長い間使われていなかったために、記念すべき石灯籠も草に埋もれていて、近年になってから再発見されたらしい。

 百間滝。展望台からはかなり距離があるので、迫力満点という姿ではないが、この一段だけで落差が 50 メートル近くあるという。遠くにある割には水音も結構大きく聞こえる。もっと近くまで行って見たいのだが、地震で道が壊れてしまい現在は通行不可になっている。

 これは少し離れたところにある雌蝶の滝。さらに、百間滝の下流には、無名滝を挟んで雄蝶の滝がある。また雌蝶の滝の左下方にも大正滝があるはず。つまり全部で六つの滝が見えることになっているが、展望台周辺の木が茂ってしまい、木々の隙間からかろうじて雄蝶の滝が見えただけ。

 十年以上前には開けた展望台から六つの滝が一望できて素晴らしい眺めだったと知人から聞いた。草木が生い茂って展望が大幅に低下しているのは明らか。利用者が少なくなった展望台では良くある現象だが、素晴らしい観光資源であるだけになんとか改善してほしい。

 ここからしばらく尾根道にヒノキの樹林が続く「油木美林」の中を下る。

 根っこがすごい。直径 1 メートルを超える大木がたくさん見られる。

 登山道はとても歩きやすい。

 ミズナラの巨木。ヒノキだけでなく、時にはこうした落葉樹も見られる。

 尾根道が終わると、急勾配の断崖を鉄の階段で下る。

 九十九折りの階段が延々と続く。下りだから楽だが、これを登るとなるとかなりきつそう。

 下ってきた階段を見あげる。

 ようやく分岐に到着。左折すると、「こもれびの滝」を経て駐車場に出る。右折すると、歩いて10分ほどで「不易の滝(ふえきのたき)」を見ることができる。

 これが「不易の滝」。流れ落ちるというよりも「したたり落ちる」という感じ。大昔からその姿が全く変わらないことからこの名で呼ばれるようになった。

 「こもれびの滝」。大きな滝ではないが、季節ごとの風情があって気持ちの良い滝だ。真夏でも滝のそばで佇むと冷気で頭がスッキリ。下の滝壺のブルーが美しい。

 この辺りは広葉樹が多く、紅葉の季節には素晴らしい景色が楽しめる。行場山荘からここまで下るルートは、四季を通して歩くことができるとっておきのハイキングコースだといえる。現時点では歩く人がそれほど多くないのも魅力だといえよう。

 これは 2019 年のほぼ同じ時期にアップした動画つきの記事「 油木美林散策 」。

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