今回は、木曽郡上松町にある東京大学の天文台を訪問。その前に、まずTAO計画について簡単に紹介しておこう。同じ東京大学の天文センターによるプロジェクトだからだ。
東京大学の天文センターでは現在、他の大学や国立天文台などからの協力を得ながら、南米チリのアタカマ砂漠にあるチャナントール山の頂上(標高5640m)に世界最高水準の口径6.5m赤外線望遠鏡を建設中。これをTAO計画と呼ぶ。
TAO望遠鏡の完成予想模型。口径6.5mの最新鋭赤外線望遠鏡を使用して、ダークエネルギー、銀河系や惑星系の起源の謎など、天文学の最新トピックスの解明を目指す。
現在のチャナントール山頂の様子。口径1mの試験望遠鏡で様々な予備調査を行っている。アタカマ砂漠は非常に乾燥した気候で、宇宙からの赤外線を吸収する水蒸気が少なく、天体が放つ赤外線を観測するのに適している。晴天率も高く、天体観測には絶好な環境だ。星のおじさんとしては非常に羨ましい。
東京大学が日本国内で運営している観測施設は、現時点では木曽観測所のみとなっている。したがって木曽観測所のメンバーもTAO計画に含まれている。うーん、何となく木曽に住んでいる僕も宇宙の謎解明の最先端にいるような気がしてきたぞ。
さて、いよいよ天文台の見学。施設の正式名称は「東京大学木曽観測所」という。国道19号線を木曽町の南、元橋交差点で王滝方面に折れ、車で15分ほど山の中に入ったところに天文台はある。標高は約1100mだが、東京大学が国内のあちこちを探して最終的にこの地を選んだだけあって、晴天率も気候条件もかなり良好だ。
敷地内には、名古屋大学の太陽風観測用パラボラアンテナも設置されている。
おっ、御嶽山がこんなに良く見える。我が濁河温泉はここから見ると真裏に当たる。今日はかなり噴煙(水蒸気?)が上がっている。
遠くに口径105cmシュミット望遠鏡を収めたドームと研究棟が見える。三年半前の御嶽山噴火を受けて、緊急時にも素早い対応ができるよう周辺の立木を伐採して見通しを良くしているそうだ。
近づくと、さすがにでかい! 一階の資料展示室と二階の見学スペースにはいつでも入ることができ、ガラス越しにシュミット望遠鏡を見ることが可能。でも、せっかく来たので少しは説明も聞きたいと思い、研究棟へ向かう。
僕が濁河温泉の旅館で「星空インストラクター」をしていると自己紹介すると、ずいぶん丁寧に対応してくれて恐縮してしまう。TAO計画のメンバーでもある観測所副所長の青木さんがシュミット望遠鏡を見せてくれるという。「えっ、本当ですか?」とさらに恐縮しながらついて行くと、先ほどはガラス越しに見ただけの観測用ドームの中に特別に入れてくれるとのこと。星のおじさんはめちゃくちゃ恐縮しながら遂にドーム内へ。
うわぁ、デカ! 口径105センチというのは先端部分のレンズで、基部にある反射鏡の直径は約1.5m。鏡筒の太さはどう見ても2メートル以上ある。広角レンズでも全貌を収めるのがやっと。
これが鏡筒の中央部にある観測装置の収納スペース。僕が感心しながら「へぇー、この中に巴御前(Tomo-e Gozenカメラ)が入ってるんですね?」というと・・・。
なんと青木さんが、おもむろに移動式の昇降台車を持ってきて蓋を開けてくれた。
これが国内最先端の超広視野Tomo-e Gozenカメラだ。まさか本物を間近で見られるとは思いも寄らなかった。現在撮影に使用しているのは右上4分の1だけで、残りの4分の3にはダミーのウェイトが取り付けてあるのが良く見える。取り付ける前の姿が、先々週の投稿にも載せた下の写真。
青木さんによると、近いうちに残りの4分の3も搭載する予定。これにより超広視野での撮影が実現し、「これまで見つかっていない稀でかつ速く時間変動する現象の検出が期待される」とのこと。何しろ世界で4番目に大きなシュミットカメラに新開発のTomo-e Gozenカメラが付いているのだから、世界があっと驚くような新発見があるかも。非常に楽しみだ。
ところで、うちの旅館では天文台のドームが雪におおわれるので除雪に苦労していると青木さんに言ったところ、こちらのドームでは全くそんなことはないというご返事。ドームの開閉装置には雪が付かないようになっており、開けたときに望遠鏡に雪がかかることはまずないそうだ。飛騨地方に比べると木曽はずっと雪が少ないので、雪が凍る前に乾いてしまうのだろう。
さらに驚いたのは、この観測所では雲からの熱放射を赤外線で常時モニタリングしており、天気を自動的に判断してドームの開閉を行い、シュミット望遠鏡による撮影はほとんど自動で行っているとのこと。さすがである。驚くしかない。
敷地内には、申し込めばゲストでも使用可能な30センチ望遠鏡のドームがある。高校生を対象とした合宿のようなイベントもあり、僕が訪問した当日も、高校生を乗せたバスとすれ違った。この施設は、将来を担う若い世代への教育目的にも力を入れている。