人口流星群


 僕は温泉旅館の屋上に設置された天文台で、星空インストラクターの仕事をしている。科学施設にある天文台の解説員ならかなりの人数がいるだろう。でも、温泉旅館で星空解説をしている人なんて、日本中さがしても何人もいないでしょう。・・・って、べつに威張るほどのことでもないけど。

 そんなわけで、晴れた日には何十人という宿泊客が、僕が待っている屋上に上って来る。最初から満天の星空が見たくて宿泊予約するお客さんも多いが、とりあえず天体望遠鏡というものを覗いてみたいだけの人もいる。酔っぱらってフラフラしながら大声で「こんばんわ~」と入ってくるおじさんもいる。

 うちの旅館は標高1800メートルの山の中にあるので、晴れて月の出ていない晩には、天の川がきれいに見える。都会に住んでいる若い人では、生まれてから一度も天の川を見たことがないなんていうのはごく普通。「昔は家の前の田んぼからでも見えたもんだけど、天の川なんて何十年も見ていない」というご年配のお客様も。

 しばらく望遠鏡で惑星や星団などを見たあと、星好きの人はテラスに出て流れ星を待つ。流星群の最中ならまだしも、普段は「流れ星ビュンビュン」なんて夜は滅多にない。一生懸命、30分以上も上を見あげて、首が少し痛くなりかけてやっと二、三個の流れ星が見られればラッキーな方だ。

 さてそんな中、岡島礼奈さんが主催する宇宙ベンチャー企業の「人工流れ星」プロジェクトと言うのがあることを知った。特殊な素材を人工衛星から大気圏に向けて発射し、人工的に流れ星を発生させるという。つまり、流星群などの機会を辛抱強く待たなくても、多くの人が一定の時間に一定方向に飛ぶ流れ星を見られるというイベントなのだ。

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