紅葉前線や桜前線は目に見えて移動するのでよく話題になる。しかし新緑はあちこちで一斉に始まるのでニュースにならない。それでもやはり新緑が最も美しくなるピークのようなものはあって、木曽谷では今がそのピークだ。甲信地方は梅雨入りしたらしい。でも僕は、晴れ間を見ては、この一年でも一番楽しいウォーキングシーズンを貪欲に楽しんでいる。
御嶽神社遙拝所の周辺も、やわらかな緑とヤマツツジのコントラストが美しい。
鳥居峠から奈良井へ下る途中で見かけたオドリコソウ(踊り子草)。笠をかぶった踊り子が輪になって踊る様子に似ているのでこの名が付いた。手持ちの山野草図鑑を見ると、薄紅色の花もあるらしい。階層になっていて、それぞれの階に踊り子がいる。葉っぱを見て分かるように、シソ科の植物だ。たぶん食べられる。
おそらく昭和四十年代の自然歩道整備事業で復元された石畳。江戸時代の鳥居峠付近に石畳があったのかどうか正確なところは分からないが、オリジナルの石畳は残っていない。現在の石畳はよく整備されていて歩きやすい。
奈良井宿に到着。鍵の手の近くにある「浄龍寺」入口付近。マーガレットが大株になっている。このお寺、残念ながら現在は管理する人がいないという。
仲町には本陣があり、旅籠やおおきな問屋などがあった。
こちらは職人街だった下町。
この日は、BYAKU で「土鍋ご飯」のランチを試すことに。酒蔵「杉の森」のシンボル、大きな杉玉が目印だ。
中庭を眺めるカウンター席に案内される。古民家の壁土がそのまま残されたインテリアと、厚板の表面に布張りの漆塗りで仕上げたテーブル。土鍋ご飯が出てくる前から気分が高ぶる。次回は大切な人と一緒に来よう。
ネーミングは控えめだが、もちろんただの「土鍋ご飯」ではない。拭き漆の器に盛り付けられた前菜がまず出てくる。これは地物野菜だけで作った「夏野菜のテリーヌ」。この宿のシェフはフレンチなので、たぶんお得意の料理なのだろう。記憶している限り、テリーヌを味わうのは人生初の僕だが、どの野菜もちょうど食べ頃の硬さに調理されているのがなんとも絶妙。アスパラガスも、パプリカも、素材の甘みがよく出ている。
シナノユキマスのお造り。それほど味に特徴のある魚ではないので、醤油ベースのソースを軽くまぶしてあるのが「漬け」っぽくて Good!。淡水魚らしい甘みが感じられる。
土鍋ご飯には肉と魚の 2 種類があり、今回は魚を注文。土鍋でじっくり炊き上げたご飯の上に岩魚の天ぷらを載せて、混ぜる前の状態をシェフが見せてくれる。しばらくすると出てくるのは、地元野菜の漬物と、「発酵の街」木曽福島は小池屋の米麹を使ったお味噌汁、そしてメインの土鍋ご飯。ふっくらとした炊き加減といい、岩魚の甘みがしっかり味わえる塩加減といい、申し分無し。いつものように空腹を満たすだけではなく、この特別な場所で味わうことで一つの「作品」を楽しんだ気がする、そんなランチだった。