2020 秋の和田峠を歩く(Wada-Toge Pass in 2020/10/31)

コースの概要

 和田宿は江戸から二十八番目の中山道の宿場町だ。次の下諏訪宿までの距離が五里十八町もある(約 23km)。中山道における宿場間の平均距離は約 8km なのだが、この二宿間の距離はその三倍もある。なぜこんなに長いかというと、和田と下諏訪の間には「和田峠」という中山道一の難所があり、その前後の山道には宿場を作るほど広い場所も集落もなかったからだ。

 五里十八町。どんなに長い大名行列でもこれを一日で通過する必要がある。例えば皇女和宮などの大切なお姫様が通過された時などには、籠を担ぐ人足を途中で何度も替えたに違いない。それで峠の東側と西側には、それぞれ東餅屋、西餅屋という休憩所があった。餅屋というくらいだから簡単な食事も提供していたと思われる。

 ぼくはと言うと、残念ながらこの五里十八町を一日で歩いたことはない。今年(2020年)の五月中旬に初めて和田峠を歩いたのだが、その時は前日に和田側の車道部分を長久保宿まで歩いてしまい、当日は「男女倉口」という登山道の入口から下諏訪宿までを歩いた。これについては江戸時代の旅人になんとなく引け目を感じている。しかし現代のトラックが爆走する国道を延々と歩くのは、昔の中山道とは違って危険かつ退屈なので、まあ勘弁して欲しいというのが正直なところ。


 ここで二宿の間、約 23km の内訳を見てみよう。和田宿から男女倉口までの車道が約 7km、そこから旧中山道の山道を歩く部分が約 7.5km、諏訪側で車道(国道 142 号)に出てから下諏訪までが約 8.5km という三つの部分からなっている。歩いて楽しい中山道の古道部分は 7.5km ということだ。(地図のクリックで拡大表示)

 ちなみに、上の地図は五月に歩いたときの記録を「 和田峠から下諏訪宿 」という記事にまとめたときに作ったもの。その記事に載せた地図をここで再利用しているのだが、和田峠の標高を 1531m としてあるのに注目してほしい。

 実は、今回の峠歩きでは和田峠の標高について重大な(?)発見があった。公式に発表されている和田峠の標高は 1531 メートル。しかしこれは、国道 142 号の旧道が和田峠トンネルを通過する標高だということが判明したのだ。つまり、歩いて通る旧中山道の和田峠(古峠と呼ばれる)の標高はこれよりも少し高く、2 台のスマホを使ったアプリによる計測では 1600 メートルほどある。

男女倉口から西餅屋下のヘアピンカーブまで

 今回は和田宿川と下諏訪川の車道部分を両方ともスキップし、「歩いて楽しい」中山道の古道部分だけを歩いた。雲一つない秋空の下、紅葉と絶景を眺めながら歩く 7.5km の峠道だ。

 男女倉口の中山道登山口。なぜか懐かしい古道の入口。

 モミジの落ち葉。紅葉はすでにピークを過ぎていて、足下にはこんな落ち葉が延々と続いている。なんとも贅沢な気分だ。

 銀杏の落ち葉。まだ黄色く色づく前の銀杏がたくさん落葉している区間があった。

 これを踏みしめて歩く。まだ誰も歩いた形跡がない。この日は今年最初の氷点下の冷え込みだったので、銀杏の葉がビックリして落ちてしまったのかもしれない。フカフカの黄緑色の絨毯だ。

 色付き始めたカラマツ林。あと一週間で黄色から褐色に変わり、あっと言う間に落葉する。明るくなった林には冬の空気が漂い始めるだろう。

 紅葉まっただ中の接待茶屋跡。この小屋の前には「黒耀水」という名水が豊富に湧いており、車で汲みに来る人が後を絶たない。

 比較のため五月の様子も載せておく。

 接待茶屋の藁葺き屋根に背後の紅葉が映える。なぜかここだけ紅葉がピークになっている。

 落ち葉の上を歩く。

 思わずシャッターを切ってしまう落ち葉の色。

 葉が散ってだんだん明るくなってきた林。

 マムシグサの実。この時期に山道を歩くとよく見かける。真っ赤で光沢のある実はよく目立つ。

 春に撮影したマムシグサ。葉っぱも独特だ。鎌首を持ち上げたマムシ(蝮)に似ているからついた名前だろう。

 落ち葉が流れに引っかかった沢の様子。

 和田峠には、ところどころにこんな石畳が残っている。おそらく江戸初期のものだろう。ぼくが独断で決めた中山道の石畳ベスト 3 は、まず大湫宿の琵琶峠の石畳、落合宿の十曲峠の石畳、そしてこの和田峠の石畳だ。

 峠に近づくと道は概ね平坦で歩きやすくなる。

 コルゲート管のトンネルでビーナスラインの下を通過。

 中山道の山道から 150 メートルほどの所にある寄り所「和田峠茶屋」。今回はここで温かい「きのこ汁」をすすりながら昼食。トイレも借りられる。ここへの往復 300 メートルは歩行距離から差し引いた。

 お腹いっぱいになって、さあ出発。林がだんだんまばらになって峠が近いことが分かる。

 ようやく和田峠に到着。枝に残った真っ赤な実が迎えてくれた。おそらくマユミの木だと思われる。

 展望台からは木曽山脈が正面に見える。本当に雲一つない上天気だ。右端に木曽御嶽の姿が!

 御嶽山のアップ。和田峠は御嶽の遙拝所にもなっており、「御嶽座王大権現」の石碑も建っている。

 展望台から見た古峠。峠の案内板があるところから北の峰に登ることができる。道はそのまま扉峠への遊歩道となる。この案内板のある場所の標高が、スマホのアプリでは 1600 メートルだった。

 北の峰の中腹まで登ると、噴煙を上げる浅間山が見える。

 諏訪側に下り始めると風景は一変。こんなきれいな紅葉もあちこちに見られる。

 石小屋跡。この案内板は平成 9 年に設置されたものだが、ここにも古峠の標高は 1600 メートルだと書いてある。

 西餅屋の看板。峠の和田宿側でみた接待小屋と東餅屋、そしてこの西餅屋という 3 箇所の休憩場所があり、接待や人馬の手配などもしていたようだ。

 西餅屋の紅葉。

 西餅屋跡の紅葉。

 西餅屋跡からさらに下るとちょっと危険なガレ場があり、それを過ぎると一里塚がある。江戸からの距離は 53 里(約 200km)だ。山の中なのに立派な一里塚で、黄色のモミジによく映えている。

 この後、国道 142 号に出たところで中山道歩きは終了。駐めてあった車で下諏訪へ。前回はここから下諏訪宿までの 8.5km も歩いた。有名な御柱の木落し坂や諏訪大社の春宮など見どころも多いのだが、中山道の大部分が交通量の多い国道と重複しているので、今回は割愛した。

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