2018年7月3日 集中豪雨、濁河温泉を襲う

 ニュースとしてはちょっと遅いが、6月28日未明に起きた岐阜県下呂市の集中豪雨が今回のテーマだ。ちなみに、濁河温泉の正式な所在地は「岐阜県下呂市小坂町落合唐谷」である。住所だけ見て、下呂温泉の一部だと思ってくる観光客が後を絶たない。

 僕がこの旅館で働き始めて3年になるが、土砂降りの雨が数時間も続いたのは今回が初めての経験だった。その雨で旅館のすぐ裏を流れる濁河川(にごりごがわ)が増水した。水量が一気に増したのが分かるほどのゴォーッという水音で夜中に眼が覚めた。でも「すごい雨だな」と思っただけでまた寝てしまった。

 後で聞いた話だが、裏の河岸が崩れそうな危険を感じて宿泊客を外の車の中へ避難させた旅館もあったらしい。幸い、うちの旅館は鉄筋コンクリート造りなのでそうした危険は感じなかった。ところが朝になって、渓谷露天風呂の見回りに行ったスタッフが見たのは驚きの光景だった。

 旅館の名物だった渓谷露天風呂の変わり果てた姿。ここにあった脱衣所の建物が根こそぎなくなっている。写真の左側に濁河川があり、手前から写真中央に見える谷に向かって流れ下っている。

 これが流される前の渓谷露天風呂と脱衣所。何年か前に広告用として撮影した雪景色だが、位置関係は上の写真とほぼ同じ。これと災害後の写真を比べると、脱衣所部分がそっくりなくなって石組みの露天風呂が土砂に埋まっているのが分かる。

 取材に来たNHKのクルーもおそるおそる現場を撮影している。この後で僕もインタビューを受け、全国放送に出演(?)してしまった。

 一夜明けて水量が減った濁河川。両岸の土砂や植生が削られており、かなり上まで水が来たことが分かる。河岸がかなり滑らかに削られている。川底の固い岩盤を残して、たまっていた土砂や木材、植生などがすべて流された感じだ。

 これはあくまでも僕の推測なのだが、旅館裏の濁河川に鉄砲水が発生した可能性がある。僕自身は、寝てしまうとなかなか起きないタイプなので聞き漏らしたのだが、夜半過ぎの雨が最も激しかった時間帯にドーンという地響きのようなものを感じた同僚がいた。「少し揺れた」と彼は言っていた。一時的に流木や土砂によるダムのようなものが形成され、それが決壊して一気に狭い谷川を流れ下ったのかもしれない。

 最後に、広告用に撮影された被災前の渓谷露天風呂の写真を載せておこう。名物の露天風呂なので復旧が待たれるが、今度はもう少し高い位置に作るなど、何らかの工夫が必要になるだろう。

 さて、よく使われる「数十年に一度の・・・」という形容だが、御嶽山の西山麓はいつ大雨が降ってもおかしくない地域だ。昔から有名な豪雪地帯でもある。今回の豪雨を教訓に、道路などの安全にも十分に配慮しながら、しっかりと先を見据えた開発を行うよう行政には期待したい。

 良質の温泉が出る観光地として、また国際的な高地トレーニングのメッカとしても、この地域は日本の宝だと僕は思っている。「数十年に一度だから今回はとりあえず応急処置で・・・」という考え方は返って税金の無駄遣いになる。

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