紅葉ガ丘(木曽町)とっておきの散歩コース

 足下に踏みしめる林道は、フカフカの落ち葉に覆われている。毛足の長い絨毯の上を歩いているような贅沢な気分になる。一年のうち、この時期しか味わえない感触だ。林道なので車は通らず、散歩する人たちは掃除などしないので、たぶん雪が降るまではこのままの状態。

 よく見ると微妙な色合いの違いが楽しい。木々の葉は光合成のシーズンを終え、半年間がんばった落葉樹の葉っぱはお役御免となる。春や夏とは違った、どこか懐かしい香りが漂う晩秋の林道。葉っぱが少ないので森林浴効果は少ないのかもしれない。でも植物の生命力に圧倒される春夏の森よりも、秋から冬にかけての森の方がぼくはリラックスできる。

 こんなにきれいな薄紅色の葉っぱが一枚だけ残っていた。思わず薄紅色と書いてしまったが、これって、濃いピンクなのかな。マット調の、濃厚でいてどこかはかない色合い。まるで誰かに見られることを意識して、こんな色になったかのよう。なんとなく「花魁」という言葉が頭に浮かんでしまった。

 道端にときどき見られる山蕗の葉っぱ。場所を正確に覚えておいて、一月の厳冬期に、親指の頭ほどの堅く締まったフキノトウ(蕗の薹)を雪の下から掘り出す。これをみじん切りにして蕗味噌にするのだ。春になって大きく育った蕗の薹とは比べものにならないほど香りと苦みが強く、皆さんより一足先に「春の香り」を満喫できる。

 木々の紅葉はほとんど終わっているが、最後まできれいな色づきを見せているのがメタセコイア。日本の各地に街路樹として植えられており、中には紅葉の並木として有名な場所もあるようだ。輸入種から苗を育ててを植林したものだが、それなりに風景にマッチしている。それもそのはず、太古には日本に自生していたらしい。

 日本各地で化石が発見されていたものの、絶滅したと思われていたメタセコイアが中国四川省で再発見されたのが1945年のこと。「生きた化石」と呼ばれることもあるが、ぼくとしては「森のシーラカンス」と呼びたい。木の肌や葉っぱを見ると、確かに古代植物の雰囲気が濃厚だ。

 ただし、メタセコイアを住宅街に植えると大変なことになる。駐車してある車の上に大量の落ち葉が溜まってしまうのだ。ぼくが以前住んでいた大阪のある団地では、こともあろうに共同駐車場の周りを囲むようにメタセコイアを植えてあった。秋になると掃除が大変で、車のエアコンの調子が悪くなったりするトラブルもあった。

 さて、紅葉ヶ丘は木曽町の市街地を眺めるのに絶好の場所だ。木曽川の両岸にびっしり立ち並ぶ住宅や商店。遠くには県立木曽病院も見える。木曽福島の駅に降り立つ観光客も、ここまで登って来る人はめったにいない。来るのはウォーキングや花見、紅葉狩りを楽しむ住民だけだ。ぼくは以前この辺りで、天然記念物のニホンカモシカに出会ったことがある。ほんの数メートルの距離で、お互いに長い間見つめ合ったことを覚えている。

 苔むした垂直の崖にそって細い道を進む。数年前までは、腐りかけた丸木橋を渡るのに手すりもない、ちょっと危険な山道だった。今ではすっかり整備されて、分かりやすい標識もあって歩きやすい。

 この散歩道の終点にあるのが「権現滝」。ぼくが小学生の頃には修験者が苦行したと言われる滝壺があったのだが、幾度かの大雨で埋まってしまった。滝壺周辺の石の間にサンショウウオが棲んでいて、友達と「俺はできるぞ、お前はできんのか」みたいな意地の張り合いとなり、サンショウウオを生きたまま飲み込んだこともある。

 滝に沿って急な山道を下ると、以前ご紹介した「崖家造り」が見られる行人橋のたもとに出る。けっこう長い上り坂もあり、景色も楽しめ、季節の移り変わりを実感できる、何度来ても飽きることのない最高の散歩道だ。

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