あぁ 砕け散るさだめの星たちよ

 夜空に輝く星(惑星を除く恒星)は、僕たち人間と同じように、生まれて、成長して、そして寿命が尽きると死んで行く。その終わり方は様々だ。
 静かにしぼんで行くか、あるいは華々しく大爆発するか。ちなみに星の場合、「寿命が尽きる」というのは「燃料切れ」のこと。燃料である水素がなくなると、ヘリウムを生成する核融合反応が継続できなくなるのだ。

 太陽のような普通の主系列星が燃料を使い果たして老年期を迎えると、赤色巨星になってからガスを大量に噴き出して収縮し、中心には白色矮星が残る。


画像クレジット NASA:惑星状星雲(キャッツアイ星雲 NGC 6543)

 放出されたガスは、上の写真のような「惑星状星雲」となる。その形状や色は実に様々で、中には動物や人の顔、道具などに似ているものもあって、それらしい名前が付けられている。この星雲は、猫の目に似ているので「キャッツアイ星雲」と呼ばれており、他にも、有名なこと座のリング状星雲(M57)、フクロウ星雲、アレイ状星雲などがある。

 さて、太陽よりずっと大きな星が老年期を迎えるとどうなるか・・・。
 こうした星が燃料切れになると、まずブクブクとふくらんで赤色巨星になる。それから中心部が自重に耐えられなくなって大爆発を起こす。これを「超新星爆発」と呼び、遠くからでも良く見える。


画像クレジット NASA:カニ星雲(M1)

 上の写真は、おうし座にある「カニ星雲(M1)」。
 今から約 1000 年前に、世界各地で目撃された超新星の現在の姿だ。ただし、かに星雲までの距離は約 6500 光年なので、7500 年前に爆発した超新星の 6500 年前の姿を見ていることになる。
 大爆発の残骸が大きく広がって星雲となり、そして星雲の中心には、星が自分の重さにたえられずに潰れてしまったパルサー(中性子星)がある。この中性子星は直径が 10 km ほどなのに、なんと質量は太陽の1.5倍もあるという。

 以上、星が最後を迎えるパターンを簡単に紹介した。実際はもう少し複雑で、理論上は星の大きさ(質量)にも超新星爆発を起こす目安があるのだが、ここでは触れないことにする。
 そして星の寿命にはもう一つの重要なポイントがある。我々地球上の生物とは違って、大きな星ほど高速で燃料を使い果たし、したがって寿命が短くなるという点だ。

 さてここで、谷村新司のヒット曲『昴(すばる)』が登場する。
 中高年以上であれば、このヒット曲を知らない人はまずいないだろう。谷村新司はプレアデス星団から直接メッセージを受けて『昴(すばる)』を作詞したらしい。その一節に:

 嗚呼 砕け散る 運命の星たちよ(あぁ~、くだけちる さだめのほしたちよ~)
 というところがある。

 華々しく「砕け散る」・・・。この部分で谷村は、超新星爆発を表現しているのだ。
 昴(プレアデス星団)を構成するのは太陽よりずっと大きな星々だ。だからそのうちいくつかの星があと少しで(といっても 1000 万年ほど後だが)超新星爆発を起こすのは間違いない。

 歌は知っていても実物の昴を見たことがない人は、さっそく今夜、東の空を見よう。プレアデス星団は「おうし座」の方向にあり、この時期(10 月中頃)には 20 時過ぎに東の空から昇って来る。ある程度の視力があれば、6 個の星が“?”マークの形(スバルの乗用車に見えないこともないけど)に集まっているのが見えるはず。


画像クレジット NASA:プレアデス星団

 僕たちが見ているプレアデス星団は、実はまだ生まれたばかり(6000 万年 ~ 1 億年ほど)の若い星団だ。同じ時期に生まれた星たちはすべて同じ色で輝いている。青白いのは、若くて温度が高いことを表している。

 日本では昔から、ムツラボシ(六連星)、スワリボシ、オスワリサン、あるいは「羽子板星」などと呼ばれて人々に親しまれてきたプレアデス星団(M45)。地球からの距離が比較的近いプレアデス星団は、星の誕生やその一生を探る上で有用な情報がたくさん得られる宝の山のような場所だ。ほぼ同時に生まれた星が、今まさに拡散して行く過程を僕たちは見ている。

 最新の観測によると、地球からプレアデス星団まの距離は 443 光年。
 443 年前、つまり西暦1575年。その年の日本では、歴史上大きな意味を持つ「長篠の合戦」が起きている。弱いことで有名な徳川家康と織田信長の連合軍が最強の武田勝頼軍と激突し、鉄砲隊によって大勝利したと言われている闘いだ。その七年後に、本能寺の変が起きている。
 今夜、僕たちが眺める昴の光は、そんな戦国時代に向こうを出発した光だ。

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