NASAの系外惑星探査衛星「ケプラー」。その本体は直径140センチの反射望遠鏡だが、系外惑星探査が目的であるため、写真撮影に使う「ハッブル宇宙望遠鏡」などと違って望遠鏡という名前は付いていない。9460万画素のCCDカメラに相当する多数のCCDを装備しており、トランジット法によって系外惑星を探索している。これまでに4000個以上の系外惑星を発見している。
さて今回は、前回紹介したトラピスト1という恒星を中心とする惑星系の話。この恒星はみずがめ座の方角にあって、距離は太陽系から約39光年。地球からこんなに近い恒星の周りに、地球に近い大きさの惑星が7個も見つかった。1つの恒星系で7個もこのサイズの見つかるのは珍しい。しかも、このうち6個は重さも地球に近い。したがって木星や土星のようなガス惑星ではなく、岩石でできた地球型惑星だとみられる。
ここまで聞いただけで夢がグンと膨らむ。「絶対、宇宙人いそうじゃん!」と思いたくなる。さらに、たとえ地球外生命体が発見されなくても、遠い将来における人類の移住先として、かなり有望じゃないか。7個も惑星があれば、少なくともそのうち1個ぐらいは我々が住める星があるに違いない。
これまでのデータ解析によれば、少なくとも3つの惑星は恒星からの距離がちょうど良い、いわゆる「ハビタブルゾーン」にある。中心星のトラピスト1自体は、我々の太陽よりかなり暗い星だが、それぞれの惑星はいずれも地球~太陽間の数十分の1の距離で周回する。つまりいくつかの惑星は暑すぎず寒すぎず、ちょうどよい温度を保てるはずだという。しかもトラピスト1は赤色矮星という寿命が非常に長いタイプの恒星なので、今後数十兆年は輝き続ける。
なぜトラピスト1が最近になって注目されているのか。それには伏線があって、NASAの探査衛星「ケプラー」が2016年に発見したプロキシマ・ケンタウリbという系外惑星の存在がある。この系外惑星までの距離は約4.2光年と非常に近い。プロキシマ・ケンタウリという恒星は太陽から一番近い恒星として有名だが、南天のケンタウルス座にあるので日本からは見えない。その恒星の周りを回っているのがプロキシマ・ケンタウリbという惑星だ。
上はプロキシマ・ケンタウリb(以下“b”と呼ぶ)の想像図。この星までの距離は、今日の主役であるトラピスト1と比較すると約10分の1。かなり近い。しかし調べてみると、生命体にとっては極端に過酷な条件下にあることが分かってきた。この惑星がハビタブルゾーンにあると言っても、それは単に水が液体で存在可能な温度範囲内にある、という意味に過ぎない。
具体的には、中心星のプロキシマ・ケンタウリという恒星は木星ほどの大きさのM型赤色矮星だが、磁場の働きによって高いエネルギー放射を繰り返す閃光星というタイプの変光星である。したがって我々の太陽とは比較にならないくらい強い紫外線やX線が放射される。したがって“b”のように中心星の近くにある惑星の大気は蒸発してしまう。さらに中心星がすぐ近くにあるため、その強力な磁場やコロナ質量放出などの影響も受ける。
ある研究によると、“b”が中心星から受ける恒星風の圧力は地球が受ける太陽風の圧力より数千倍も強いだけでなく、その圧力が頻繁に変化する。その結果として“b”の大気は毎日3倍も伸縮していることが判明した。つまり、“b”の大気は超音速で動いていることになる。要するに秒速数百メートルの風が常に吹きっぱなし。これではとても生物が住めるような状況ではない。
結果として、距離は遠いけれども、同じ赤色矮星であるトラピスト1の方が研究対象として有望だと思われるようになった。生命が存在可能な惑星を見つけるのはなかなか簡単ではない。
ちなみに、“b”までスペースシャトルで行くと、だいたい15万年ほどかかる。推進ロケットの性能が上がっても、せいぜい10万年まで短縮できるかどうか。
一方、トラピスト1までは39光年もある。改良型の高性能化学燃料ロケットで約100万年。上はNASAが公表した核熱ロケットの想像図だが、将来的にこの夢の核熱ロケットが開発されて速度が飛躍的に上がっても、トラピスト1までおそらく10万年はかかるだろう。10万年間、持続可能な方法で食料を生産しながら、みんなでずっと一つの宇宙船に乗っている。最初は憶えているかもしれないが、何世代か後には初期の目的もだんだんあやふやになってきて、全員が「ここはどこ? 私はだれ?」状態になってしまうかも。
さて、ここで1000歩譲って、我々の銀河系内に地球外生命体のいる惑星が1000個あったとしよう。すると惑星間の距離は平均で4000~5000光年になる。人類がそこに到達したり、あるいはその一つから地球外生命体の訪問を受けるという可能性がいかに低いものか容易に想像が付く。
読者から、「夢のないじじいだ」と思われるのを承知で言うと、人類が地球外生命体に遭遇する可能性は限りなくゼロに近い。1億円の宝くじを毎日1枚ずつ買ってそれが連続100万回当たる確率よりもっと低い。つまり、地球外生命体が存在する可能性はあるが、人類がそうした生命体に遭遇する可能性は、残念ながらとても低いのだ。まあ、攻撃されたり侵略される可能性も無いので、安心していられるというのは良いことだけど。
ここからは余談。上の写真はウルトラマンの故郷とされるM78星雲だ。距離が約1600光年なので、核熱ロケットでも到着するまでに400万年かかる。ウルトラファミリーは、たびたび故郷に帰っていたようだが、たぶん時空を超越したウルトラショートカットを使っていたのだろう。そんなに遠くから、わざわざ地球を守るために来てくれたのだ。