御嶽古道を歩く Part 1(Ontake-Kodo: Old Ontake Trail: Overview)

御嶽古道概要

 御嶽山への登山道が最初に開かれたのは今から千年以上も前、平安時代のことだ。遠い昔から崇敬の対象となってきた御嶽山には、修験者たちが開いた登山道がいくつかある。

 その一つである黒沢口登山道は、古くから修験者の登拝に使われていた登山道を 1786 年に覚明行者が改修したもの。尾張出身の覚明は、それまで厳しい事前の修行が必要だった木曽御嶽に「軽精進登拝」を導入した功労者だ。

 もう一方の王滝口登山道は、江戸出身の普寛行者が 1792 年に新しく開いた登山道だ。普寬行者はその後の御嶽講となる信仰の礎を作った人物だ。開かれた当時のルートが保存されているこうした御嶽登山道を「御嶽古道」(Ontake-Kodo: Old Ontake Trail)と呼ぶ。



 上の絵地図上で、青い札で示されているのが王滝口の御嶽古道、赤い札が付いているのが黒沢口の御嶽古道だ。(地図をクリックすると拡大表示)

 御嶽古道は、黒沢口、王滝口の両方とも木曽町にある「行人橋(ぎょうにんばし)」を出発点とする。写真の「行人橋歩道橋」は車道の行人橋から 50 メートルほど木曽川の上流に架設されていて、すぐそばに人気の「足湯」もある。JR 木曽福島駅から歩いて 10 分ほど。

 「行人橋歩道橋」から木曽川下流方向を見る。中央に見えているのが車両用の行人橋で、左手に見えるのが木曽町の観光スポットにもなっている「 崖家造り 」の家屋群だ。車道が整備される前は、日本中から訪れて木曽福島駅で下車した人々が、この崖家造りの家並みを見ながら御嶽登山道をたどったことだろう。ちなみに、大雨で木曽川が増水すると、しばしば NHK ニュースでこの場所が中継される。

 「御嶽登山道」の起点を示す石標。行人橋は言わば「聖域への入口」であり、ここから御嶽頂上奥社にある黒沢御嶽神社まで、昔からの登山道をほぼそのままたどることができる。もちろん現在では、バスやロープウェイなどがあるので、昔の登山道をすべて歩く人はほとんどいない。しかし昨今のウォーキングブームもあって、御嶽古道を歩いてみたいという人が増えている。

 黒沢口の御嶽古道には、一ノ巻、二ノ巻、三ノ巻に分かれたガイドマップが発行されている。途中の見どころが写真やイラストで掲載されていて、なんと英語版もある(「木曽おんたけ観光局」から入手可能)。ただし、一部に古道を歩くのが難しい箇所があり、現在整備中となっている。2020 年秋には案内板を含めて整備が完了する予定だ。

 さて、もう一つの王滝口御嶽古道については、残念ながら木曽福島から王滝村までの古道がほとんど保存されていない。したがって普寛行者が開いた古道をたどることができるのは、標高 900 メートルの一合目にある「王滝観光総合事務所」前が出発点となる。ここから、1670m の「八海山神社」まで、標高差が 770 メートル、距離が約 9km のウォーキングトレイルだ。

御嶽古道 – 王滝口

 歩ける部分が限られた王滝口の御嶽古道だが、御嶽神社里宮を始めとして修験道の滝行で使われた清滝と新滝などの見どころが多い。また両側に多くの霊神碑が残る登山道がしっかりと整備されていて歩きやすく、独特の神秘的な雰囲気を味わいながらの古道ウォーキングを満喫できる。

 王滝口の御嶽古道マップが付いた小冊子。これも木曽おんたけ観光局で入手できる。この「古道遊歩」のマップを片手に、王滝口古道を歩いてみよう。「御嶽山・古道遊歩」をキーワードに検索すると、PC 上で古道遊歩マップの内容を読むことも可能だ。

 さて、この「御嶽古道を歩く」シリーズでは、まず一合目の王滝村中心部から三合目の大又三社までを Part 1 とし、三合目から五合目の八海山神社までを Part 2 とする。そして最後の Part 3 では、オリジナルの御嶽古道にこだわらず、新滝と清滝という二つの滝を巡る周回コースを歩く。

 というわけで、まず今回は一合目から御嶽古道を大又三社まで登る。ゆっくり歩いても 2 時間ほどで目的地の大又三社に到着する。古道が車道と重複する部分が多いので、オフロード歩きが目的の人は、この部分を交通機関利用で駆け足で済ますことも可能だ。

御嶽古道を歩く Part 1 – 一合目~三合目

 郵便局、旅館、商店、旅館などが集中している王滝村の中心部。左側に見えているが「王滝観光総合事務所」の建物だ。おんたけ交通の「王滝」バス停もここにあるので、JR 木曽福島駅からのアクセスは良い。バス道路は左方向に大きくカーブしている。正面に向かって延びている細い道路が御嶽古道だ。

 突き当たりを右折するとこんな旅館街になっている。奥に見える滝旅館の後方には「御嶽神社別殿」があり、滝旅館のご主人が宮司を務めている。

 ここを通過して車道に出る。その後は里宮まで、しばらく車道を歩くことになる。

 これが「御嶽神社里宮」の入口にある金属製の大鳥居だ。

 大鳥居からここまで石段が 67 段、さらにこの鳥居から鬱蒼としたヒノキとサワラの大木を見ながら 371 段の石段を登ると社殿がある。長い石段のアプローチを登った先に、岩壁を背負って建つ美しい社殿がある。御嶽古道周辺には多くの神社があるが、御嶽教の雰囲気を味わうには絶対に外せない施設がこの里宮だ。

 里宮から車道に戻ってしばらく登って行くと、右手にそば処「さくら」が見えてくる。

 その斜め道路向かいにある「一心堂」。普寬行者の後継者の一人、一心行者を奉っている。

 和菓子店「ひめや」前の分岐。御嶽古道の道標が見えるので左の道を進む。

 ここから次の合流地点まで、静かな古道歩きを楽しめる。

 最初に目に付くのがひっそりと建つ卯野薬房の建物だ。かつてはこの道を多くの登山客が通過し、ここも飲み物や軽食を提供する茶屋として機能していた。

 道路に面した側はすべてガラス窓。賑やかだった往時が偲ばれるなかなか雰囲気の良い建物だ。二階の廊下部分が前にせりだしていて、登山道を歩く人々を見下ろす格好になっている。ガラス窓を開け放って楽しいやりとりが交わされていたに違いない。

 林立する霊神碑を見ながらゆっくりと古道を歩く。

 草の茂る道の両側に延々と続く霊神碑。日本遺産となっている「木曽御嶽山霊神碑群」は、総数二万と言われる。その一基一基に、御嶽山に魂の安息を委ねる人々の強い願いが込められている。

 御嶽信仰では、人が死ぬとその魂は御嶽山に行って住むとされる。これは普寬行者の「死せば魂は木曽御嶽山に鎮まる」という教えに基づくものだ。魂となったそうした行者の中でも、信者の信頼が厚く、特に優れた能力を持った者だけが「霊神」となる。

 「ひめや」の分岐で分かれた車道と、再びここで合流する。またしばらく車道を歩こう。

 大又三社。鳥居をくぐると急な階段が一直線に続き、かなり上まで登らないと参拝所が見えない。

 実はこの恐ろしく長い階段は、御嶽山そのものを象徴しており、その先の岩場に御嶽三大神が奉られている。実際の頂上に参拝できない信者は、この階段を上って参拝することで、御嶽頂上に参拝したことにしてもらうという寸法だ。

 分岐まで登って、ようやく参拝所が見えてくる。

 階段の突き当たり、岩壁を背に立つ御嶽三大神。中央に立つのが御嶽山座王大権現、向かって右が八海山提頭羅神王、左側が三笠山刀利天宮だ。

 この Part 1 で歩いた一合目から大又三社までは、主として車道を歩く名所巡りだ。大又三社の鳥居まで戻って車道を 20 分ほど歩くと、滝行で有名な清滝に到着する。

 さて、ここで次回の予告。近日中にアップする予定の「御嶽古道を歩く Part 2」は、大又三社から五合目の八海山神社まで、ほとんど車道を使わずに古道ウォーキングを満喫できるコースだ。

交通機関を利用した 2 時間観光コース

 短時間で里宮と新滝だけをマイカーなどで見学するオプション 「御嶽神社里宮と新滝 2019」 もある。これは、2019 年 7 月のある外国人ファミリーを案内したときの記事だ。里宮の様子を動画で見ることができる。

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