岨づたいに行く崖の道・三留野宿~野尻宿(Nagiso, Midono to Nojiri post town)


画像:Wikipedia 木曽海道六十九次、英泉作、野尻宿

 「木曾路はすべて山の中である。あるところは岨(そば)づたいに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。」有名な島崎藤村の歴史大河小説『夜明け前』の書き出し部分だ。

 さらに江戸時代末期に編集された『木曽路名所図会』にも以下のような記述がある。「野尻より三留野までおよそ二里半、道は深き木曽川に沿い、せまき所は木を切り渡し、つたかずらにてからめて、その巾をおぎない馬にも乗りがたき はなはだ危うきところあり。」

 三留野宿と野尻宿の間にあるこの場所が、木曽路の中でも特に通過が難しい難所だったことがわかる。昨年の記事、「 与川道を行く 」で紹介した与川道は、この木曽川沿いの区間を迂回するための峠道だった。同じ区間を通過する中山道よりも距離にして 5km ほど長い山道なのだが、それでも多くの「お姫様行列」が与川道の方を選んだ。

 当時の中山道の「与川渡」から「羅天」までは、断崖が木曽川に垂直に落ち込んでいたという。今回の記事では、その難所だった「羅天橋」の現在の様子も紹介している。羅天の桟道(さんどう)が開通したのは 1468 年(慶安元年)だが、蛇抜け(鉄砲水による土石流)や木曽川の増水により、通行止めになることが多かった。それで迂回路として与川道が使われるようになった。

 さて、ウォーキングは南木曽駅からスタートする。この写真は南木曽駅を旧中山道から見たところ。いつもは南木曽駅の改札を出ると、そのまま与川道に向かって歩き始めるのだが、今回は駅の南側 100 メートルほどの所にある跨線橋を渡って旧中山道に出る。

 旧中山道の標識。ちゃんと中山道と与川道、両方の案内がある。与川道は外国人にも人気が高く、最近ではこちらを歩く人の方が圧倒的に多い。

 駅前から南木曽役場の前を通る本通りとここで合流する。

 中山道は民家の裏庭を通過するところがあり、物干竿においしそうな干し柿が下がっていた。

 2014 年に大きな蛇抜け(土石流)が発生した梨子沢にかかる橋。南木曽周辺は、現在でもこうした水害が頻発する場所だ。

 三留野宿の本陣跡。中山道は今も使われている生活道路になっていて、江戸時代の街道といった面影はほとんど残っていない。

 カリンの実。カリンはこの辺りの名産品だ。木曽路でもこれより北の地域ではカリンが育たない。

 与川道との分岐。右の道が、記事の冒頭でも紹介した与川道だ。

 上の分岐を直進して坂を下るとガードがある。これをくぐって国道 19 号線に出る。

 国道にはしっかりしたガードレールと広い歩道が整備されていて、安心して歩ける。中山道を歩く人の増加を考慮したものだ。

 対岸の景色。この辺りは、山も川筋もすべて白っぽい花崗岩で覆われている。

 洞門が遠くに見える。この洞門がある場所が『夜明け前』に書かれている「岨づたいに行く崖の道」だ。

 与川を渡る橋。ここを与川渡(よがわど)と呼ぶ。鉄道をくぐって数キロ登ると、迂回路である与川道に合流する。

 おそらく百年以上変わっていないと思われる対岸の紅葉。江戸時代の旅人もこんな景色を見ながら歩いたに違いない。

 羅天の洞門。「道は深き木曽川に沿い、せまき所は木を切り渡し、つたかずらにてからめて・・・、はなはだ危うきところあり」と記された、まさにその場所だ。

 現在の羅天橋(らてんばし)。崖の道だった区間をコンクリートでガチガチに堅め、国道だけでなく鉄道まで通している。言われなければ、ここがそんな難所だったなんて気付く人はまずいないだろう。

 国道の左上に見えるのが、JR 中央線が通る洞門だ。ちなみに、トンネル(隧道)とは違って片側が外に開いているこうした構造物を、建設用語で洞門(どうもん)と呼ぶ。

 十二兼および柿其(かきぞれ)渓谷への分岐。

 柿其橋から見える花崗岩の絶景。有名な「寝覚ノ床」にあやかって「南寝覚」とも呼ばれる。

 JR の十二兼駅。柿其渓谷を歩く人は、ここで下車すると便利だ。

 国道と鉄道の下を通るトンネル。

 木曽熊野神社。

 モミジ。

 ここで再び国道を外れて静かな中山道を歩くことができる。

 幅の狭い河岸段丘を鉄道と国道と旧中山道が通過するので、こんなガードが数多くある。これはこれで楽しめる。

 久しぶりの一里塚。江戸から五十二里。

 「野尻の七曲がり」と言われるとおり、街道はくねくねと曲がりながら野尻地区を通過する。

 このあたりでは藁に包んで熟し柿を作る。

 今は営業していない旅館「庭田屋」さん。

 旅館の向かいにある花屋さん。この交差点を下ると JR 野尻駅に出る。

 野尻宿の本陣跡。

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