人類は地球外生命体に遭遇するか – その1

 今回は、ちょっと「天文学的な数字」の話をしたい。  僕が屋上天文台で星空解説をしていると、「宇宙人はいると思いますか?」とお客さんに聞かれることがよくある。それに対して僕がうだうだと否定的な見解を述べると、相手はがっかりした表情を隠さない。UFOとか宇宙人は「いた方が夢がある」と感じている人が、どうも多数派のようなのだ。

ETs

 しかしこれは夢があるとかないとかの問題ではない。人間だけでなく、生命そのものに関わるとても深刻な問題としてとらえるべきだと僕は思っている。我々人類と同等か、あるいは遥かに高度な文明を持つ生命体が、地球以外の天体に存在するのか。いやその前に、そもそも(バクテリアでも、ウイルスでもなんでもいいので)なんらかの生命が地球以外の天体に存在するのだろうか。

 これは見たところ科学的な問題であり、データ解析で解答を導けそうな気がする。限に、理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士などは、地球以外に高等生物がいる可能性を100%信じていると明言する。しかし星のおじさんとしては、ホーキング博士についてちょっと言っておきたいことがあるのだ。

 理論物理学の世界でいくつかの重要な発見をしてきたホーキング博士は、若い頃、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病を発症し、全身麻痺でほとんど動けない。それでも、車椅子に深く身を沈めながら、機械音声で講演したりインタビューに回答する姿を、テレビを通じて目にした読者も多いことだろう。ブラックホールにおける特異点など、理論物理では功績の大きな博士だが、実は生物学に関してはほとんど素人だと思われる。

 そうでなければ、「地球外生命体を発見したとしても、彼らに地球が侵略される可能性があるからコンタクトをとるべきではない」などと本気で言うはずがない。あれはおそらく、一般市民に宇宙に対する関心を持ってもらうためのパフォーマンスなのだと思う。しかし、こうした影響力の大きな学者が「宇宙人は確実に存在する」といった発言をすることは、一般人に間違った認識を与えかねない。

 実際のところ、遺伝子進化学、分子進化学などの最新的な研究結果を見る限り、生物学の研究が進めば進むほど、地球外生命体が存在する可能性はどんどん低くなって行くようである。生物進化学に革命を起こす「分子進化の中立説」を提唱した、生物進化の分野では世界的に有名な故木村資生(きむらもとお)博士でさえ、最初の生命が発生する確率を「10の100乗分の一以下」だと推測している。

 我々の天の川銀河には、実に2000億個もの恒星がある。2000億というのは確かにすごい数だ。この恐ろしい数の恒星の中には、周囲に惑星を持つものも数多くあり、さらにそうした惑星の中にはハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の範囲内に収まっているものもたくさんある。

 ハビタブルゾーンにある惑星、つまり液体の水が存在していて、大気があって、生き物が移動できるような固い地面を持つ惑星は、天の川銀河の中だけでも、おそらく1000個単位で存在すると思われる。こうした銀河系が、宇宙全体ではなんと数兆個もあるのだ。「だったら、宇宙人いても全然おかしくないよね」と思いたい。

 さてここで、先ほどの木村資生先生の推測値を当てはめて見よう。まず、一つの銀河系に含まれる恒星の数を平均1000億個と仮定する。そうした銀河系が数兆個集まると一つの宇宙になる。しかし宇宙が一つではまだ足りない。どのくらい「足りないか」と言うと、問題にならないくらい全く足りないのだ。銀河系を数兆個含むという気の遠くなりそうな大きさの宇宙。それをさらに数兆個集めても、地球のように生命が誕生して、それが高等生物にまで進化する惑星が、一つも無い。

 ちょっと寂しい気もするが、僕達の地球がいかに「奇跡中の奇跡」なんていうレベルを超えた、恐ろしく貴重な存在かという話なのだ。これは、木村先生の推測を参考にした試算であり、これが最終結論というわけではない。でも、ダーウィン進化論の本質をたぶん世界で一番深く理解していたと思われる大学者の見解は重く受け止めるべきだ。

 さて、それでもやっぱり僕らは、地球外生命体が存在するんじゃないかという夢を捨てることができない。それに、たとえ生物がいなくても、太陽以外の恒星のハビタブルゾーンにある地球のような惑星に行ってみたいという大きな夢もある。さらに、遠い将来には地球が超満員状態になって、僕らの子孫が他の惑星に移住しなければならなくなる。そうなったらどの星に行くのかは大きな問題だ。

 したがって次回は、近年になって見つかった「人が住めるかもしれない」系外惑星について少し紹介したいと思う。とりあえずは、みずがめ座の方角にあって39光年しか離れていない恒星“トラピスト1”の惑星系について、いろいろと想像をたくましくしてみたい。

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